星に願いし恋

いつまで祐樹はこうしているつもりだろう。

離せない手は私の緊張のせいで汗ばんできた。

祐樹は離すつもりはないらしい。

夢中で映画を見ている。

まるで、手を繋いでいるのを忘れているかのように。

私も諦めて映画を見ていた。

ところが。

また隣から寝息が聞こえる。

すでに颯人は起きて、映画を見ている。

これは、颯人のものではない。

……もう1人の隣の人物、祐樹だ。

あんたらは映画を見に来たんだろうがって言いたくなる。

これはチャンスだと思い、思いっきり手を引く。

が、手をしっかり握ったまま気持ちよさそうに眠っている。

颯人からは見えないけど、いつバレるかはわからない。

早く離してほしいんだけど……

そう思った時、ふいに聞こえた祐樹の声。

「ん……ちひろ……」

……ちひろって、私のこと?

思わず祐樹を見続ける。

いつもは「ちぃ」って読んでるのに、それとも別の誰か?

……別の誰かと言えば、思い当たる人が1人。

祐樹の妹だ。

確か、妹も千尋って名前だから区別するために私を「ちぃ」って呼ぶって言ってた。

なんだ、妹さんのことか。

私のことかとびっくりしたじゃん。

夢にまで出てくるなんて、大事にしてんだね。

私も大事にされてたのかな。

お父さん、お母さん、お兄ちゃん……

修平と一緒に可愛がられてたのかな。

そう考えると、何故だか涙が出そうになる。

いけない、こんなところで泣くなんて……

映画が終わりを迎えたころに、祐樹は目を覚ました。

「あ……」

あ、じゃないわよ!

そう叫びたかったけど、それを抑える。

祐樹は何をしてたのか思いだしたようで、バッと手を離す。

「わりぃ」

謝罪の言葉はそれだけかよ。

映画が終わり、全員が映画館を後にした。

「面白かったな!」

「そうだな!」

「千尋も面白かっただろ?」

「あ、うん」

実を言うと、あんまり内容覚えてません。

なんて口が裂けても言えない。

だって、こんなに嬉しそうに話してるんだから。

「なんか、食べていかねぇか?」

修平が提案した。

これに皆賛成し、近くのハンバーガー店に入った。

「ちーちゃん、隣座ろっ」

私の腕に自分の腕をからめて、梨奈が言ってきた。

「いいけど……修平の隣じゃなくていいの?」

いいのいいの!って梨奈は言ってるけど、修平は隣に座りたそうにしている。

ま、梨奈のためだし。

ここは梨奈の意見を尊重しよう。

「っていうか、修平は準備全部終わったの?」

会った時は、それどころではなかったから今思いだした。

「まぁな!残りの大荷物は兄貴がやるって言ったから」

修也兄ちゃん……なんか押しつけられたのかな?

今頃、四苦八苦してるのかも。

ちょっとだけ修也兄ちゃんに同情する。

「俺、ハンバーガー食べるー!」

「ま、ハンバーガー店だからなぁ」

ショートコントみたいに、光哉と颯人はずっと話してる。

……さっき映画館であったこと颯人に言ったら、また喧嘩になりそう。

言ったがいいのかもしれないけど、祐樹が可哀そうだし……

……あれ?

何でかな。

さっきから颯人のこと考えたら、同時に祐樹のことまで出てくる。

意味がわからない。

私って……颯人が好きなんだよね?

颯人の『彼女』だよね?