「ちぃ、帰るぞ」

準備が終わるころ、タイミングを見計らったように祐樹が声をかけてきた。

さっきまで怒ってたのに……

そういう風の吹きまわし?

「あ、ごめん。今日は修也先輩と帰る予定」

「修也先輩?」

眉間にしわをよせて聞いてくる。

「……そっか。じゃ、明日迎えに来るから」

さっきまでの元気はどこにいったのか、少し低い声で言った。

私、悪いことしたかな?

そう思いながらも正門へと急ぐ。

走って行ったけど、すでに修也先輩が来ていた。

修也先輩の隣には女子生徒が。

誰だろうと思って、立ち止まって様子を見ていた。

2人は何か話しているようでニコニコ笑ってる。

……違うな。

修也先輩は作り笑いを浮かべている。

それが私にははっきり分かった。

以前の私と似てるから。

行ったが、いいよね?

確信して歩き出す。

「修也せんぱいっ」

いかにも走って来たように、はぁはぁと疲れたふりをする。

2人は同時に振り返った。

女子生徒には、睨まれた気もするが……

この人、普通に可愛い顔してる。

「修也君、この子は?」

「千尋はサッカー部のマネージャー。今日一緒に帰ろうって約束してたんだ」

そうなんだ、と納得したように相槌を打っている。

「修也君、年下からもモテるんだね」

「いや、千尋は俺から誘ったから」

驚いた様子で目を見開く。

「そう、修也君が……ねぇ、私も途中まで一緒に行っていーい?」

上目づかいで修也先輩をみあげる女子生徒。

「ごめん。俺、2人で帰りたいから」

そう言った先輩は私の肩に手を回している。

「……なら仕方ないわね。じゃあね、修也君!」

修也先輩に笑顔を振りまいてるけど、私を完全に睨んでた。

手を振りながら走って行った。

「あー、疲れた。千尋、途中で止まってただろ」

……完全に見られてた。

「バレてました?」

「ま、気を使ってくれたんだろうけど。だからわざわざ演技してくれたんだろ?」

「まぁ……」

それは間違ってないけど。

「ありがとな、帰ろうか」

肩に手を置いたまま歩き出した先輩。