ドクン、ドクン。

心臓の音がはっきりわかる。

教室の前で立ち止まったまま。

いつも通り入ればいいのかもしれないけど、何故かその1歩が踏み出せない。

「ちぃ?」

「うん……」

返事はするものの内容は全くわからない。

ダメだ。

私って弱いな。

身をもって感じた。

「大丈夫だって。皆、何も言わないよ」

祐樹は何でこんなに優しい言葉ばかりかけてくれるの?

教室のドアを大きく開け放った光哉。

まだ心の準備が……!

「おっはよー!」

大声で挨拶する光哉。

人の気持ちも知らないで……

皆一斉に入口を向く。

他の3人の存在にも気付いたみたい。

無理……ただ教室に入るだけかもしれないけど。

……やっぱり私って。

『弱い』

強がってただけで、本当は誰よりも弱虫だったんだ。

消えたい。

この場所から逃れたいよ______。

「逃げんなよ、何があっても。俺等が守るって言ったじゃんか」

私の目をまっすぐに見て話す祐樹。

その目は私の心を見透かしていたかのよう。

そう、だよね。

他の人から見たら、何やってるんだろうって思うこの状況。

早く入ればいいのにって思ってるのかもしれない。

でも、私にとっては大きな1歩かもしれないんだから。

「ちーちゃん、おはよう」

うつむいて目を閉じた私に聞こえた声。

ゆっくり開いた目にうつった人。

「……梨奈」

「元気?」

優しく微笑む梨奈は天使みたいだった。

「入ろう?私の話、一番にちーちゃんに聞いてほしかったの」

梨奈に手を握られ教室に入った。

あっさり踏んだ1歩は、奇跡に値する1歩。

言い過ぎかもしれないけど、私は覚悟した。

もう逃げちゃいけないんだと。

お母さんの死から、何も変わっていなかった。

いや変えようとしなかったから、自分で変えないといけない。

誰かに頼りながらでもいい。

ゆっくりでいいから、生きて行かないとダメだよね?

お母さんに失礼だ。

消えるなんて言葉使った私がバカに思えてきた。

手をひかれ、自分の席に着いた。

「ちーちゃん。私ね、ちーちゃんの親友になりたいな」

梨奈から放たれた言葉。

「親友?」

「うん。ちーちゃんの支えになりたい。肩書きだけじゃない、本当の友達になりたいから」

……全て分かってた。

梨奈は、私のこと分かってくれていた。

「ゆっくりでいいから、生きようよ。絶対楽しいよ!保障するから」

皆に聞こえないように小さい声で話した梨奈。

「ありがとう、梨奈」