『……村本千尋、だよな?』

『……伊藤颯人?』

お互い聞き合って、やっと本人だと理解した。

でも、颯人はあんまり変わってなかった。

昔と変わらない笑顔を見せた。

その笑顔で私も笑顔になれた。

本当に奇跡だと思った。

でも、もう颯人は私だけのものじゃないもんね。

颯人は思ったよりモテるみたい。

私もたまたま颯人が告白されてるところを見てしまった。

「私、颯人君のこと好きです!私で良かったら、付き合って下さい」

そういう女の子は少し震えていた。

緊張してるんだってすぐに分かった。

「……ありがとう」

私はその言葉を聞いた瞬間、驚きを隠せなかった。

「え、じゃあ……!」

満面の笑みを見せる女の子。

だってそういう言葉を聞いたら、OKしてるかと思うじゃん。

私は耐えきれず、その場を後にしようと後ろを向いた。

そしたら。

「でも、ごめん。俺、君と付き合うことはできない」

「でも、ありがとうって」

そう言われても女の子は諦めようとしない。

「告白してくれてありがとうってこと。俺、好きな子いるから」

女の子は静かに泣きだした。

「誰?その、好きな子って」

手で顔を隠しながら聞いている。

「言えない」

「教えてよ!」

何でそこまで教えないといけないのよ。

私に聞かれたわけじゃないけど、なんかイライラする。

でも、颯人の好きな人も知りたい。

「何でそこまで言わないといけないの。いい加減に諦めろよ」

さっきまでの颯人とは違い、イライラした様子をためらいなく見せている。

さっきまでは、この子のことを考えて優しくしてたのか。

まぁ、あそこまでしつこくされたら誰でも怒るか。

「っ……ひどい!」

「言われる原因作ったのはあんただろ」

……ここまで怒る颯人は見たことがない。