「今日は本当にありがとね。明日、正式に入部届け出してね」

「分かりました。こちらこそ送っていただいて感謝してます」

別に感謝なんてしてないけどさ。

こうでも言わないと、感謝してる感じには見えないから。

「じゃあ、明日ね、ちぃ。」

「はい、さようなら」


先輩と別れて、家の鍵をかばんの中から取り出して差し込む。

ガチャンという音の後、ドアを開けた。

いつものごとく、家は静かなまま。

靴を脱ぐ音。

廊下を歩く音。

ドアノブをまわす音。

ドアを開ける音。

時計のカチ、カチという音までもがはっきりと聞こえる。

「ただいま」

リビングに入ってやっと出た声。

まぁ、何を言っても返事は返ってこないけど。

ソファにゆっくり腰掛ける。

「もぉー、なんか疲れた」

この言葉と同時に溜息まで出てくる。

数分の間、座って遠くを見ていた。

「あ、いけない」

疲れてしまって忘れていた。

スッと立ち上がり、部屋の隅にある仏壇の前に行く。

マッチをすってろうそくに火を付け、お線香をあげておりんを鳴らす。

そして、手を合わせる。

「お母さん、今日の学校はいつも以上に大変でした。急にサッカー部のマネージャーになったの。どうしようかな」

この時間だけはお母さんと繋がっている感じがする。

お父さんと離婚し女手一つで私を育ててくれたお母さん。

でも、病気によって私が幼稚園を卒園する時に亡くなった。

私の卒園式を見た数日後に。

小中学校の間は祖父母が預かってくれてたけど、私が望んだ1人暮らしを認めてくれた。

迷惑をかけたくなかったから。

あの頃はまだ、純情な心があったのかもしれない。

いつからだろうね。

こんな性格になってしまったのは。