「ねえ、フェリ。」
甘い甘い誘惑。
伏し目がちにされた瞳では、彼女の奥の心までは読み取れない。
彼女は何を考えてこんな事してるのか。
そして、いつの間に彼女はこんなに大人になったのだろう。
もう僕の手の届かない所へ行ってしまったようで、胸が痛い。
「…リザ、」
知らず知らずのうちに、僕の手は彼女の体に回されていて、そっと、確かめるように、抱きしめ返す。
自分の声が少し掠れてて、変だった。
彼女は額がひっつきそうなほどの至近距離から僕の瞳を見つめるとまた囁く。
「キス、しよっか。」
お互いの吐息がかかって、若干我に帰ったが、彼女はそれを許さないと言わんばかりに僕の頬に手を沿わせた。
お互いの顔が近付くにしたがって、彼女が自然に目を閉じたのを見て、僕の瞼も自然と降りた。
「フェリー!フェリクス!!」
突然、名前を呼ぶ声が聞こえて、バンッと扉が開けられる。
驚いて目を開けるが、目に入ったのはもうピントが合わないくらい近い彼女の顔で。
いつの間にか目を開けていた彼女の瞳と辛うじて視線が合ったかと思うと、次の瞬間、唇が当たっていた。
唇は直様離れたが、時は既に遅し。
「まあ…」
はっとする母さんの声が聞こえて理解した。
もう、何を言っても無駄だろう。

