「そこの、倒れてる二人を、僕に差し出してよ。そうしたら、君たち二人の怪我を治してあげる。そして、僕は君たちに手を出さないと誓うよ。
さぁ、どうする?」

それは悪魔の取引。
前では悪魔が、俺に囁きかける。
後ろでは、死神が、俺に手招きしてる。
一生罪を背負って生きるか、ここで死ぬか。
俺はまだ、生きていたい!!

「ああ!二人を差し出す!から!助けてくれ!!」

出せる精一杯の声で叫んだ。

「はは。素直だな、君は。隣の君も、それでいいかい?」

魔王が、また笑みを見せる。
俺はまだカレンを見た。
カレンは、呆然とした表情で、俺を見ていた。

「サクヤ…お前……姫を見殺しにすると言うのか!!」

「違う!!魔王は、差し出せと言っただけだ!サラサが殺されるとは限らない!!
それに、ここで負けるわけにはいかないんだ!!!」

「ふざけるな!!私たちの負けは確定している!!それならば、仲間を守り、潔く死ぬのが英雄だ!それを貴様は…!!」

「俺は英雄なんかじゃない!!勇者でもない!!ただの男子高校生だ!
それを、お前らが勝手に勇者に仕立て上げ、俺を生贄に国を救おうとする!!ふざけるな!!」

「なんだと!!」

「どうでもいいんだけど、さっさと決めてくんない?」

カレンはその言葉に、カッと目を見開き、魔王へ怒鳴った。

「ふざけるな!私はそんなもの承諾しな…は?」

が、突然頭を抑えた。
きっと、この腕からの出血で、貧血状態なんだろう。
それなのに、あんなに叫ぶからだ。

カレンももう、限界なのだ。

「カレン。ここは一旦退こうと言ったのは、誰だったかな…?」

「っ…!」

俺は、強行突破することを決めた。
こんなところで、死ぬ訳にはいかない。
加奈だって待ってる。

そうだ。俺が死んだら、加奈が悲しむ。
だから、死ねないんだ。
加奈がいなければ、俺は必死で、それこそ死ぬまで戦っただろう。
だが、加奈は俺がいなければ、きっと生きていけないはずだ。
城をだされたら、話すこともできない加奈じゃ、すぐに死んでしまう。
だから、俺は死ねないんだ。
こんなところで殺されるわけにはいかないんだ…!!

突然、隣にものすごい爆発音がした。

見れば、床が抉れてる。

ハッとして、魔王を見れば、俺たちに向けられた指先。

「はい、時間切れー。ざんねーん」

幼子のような無邪気な笑みを浮かべながら、魔王は指先の魔力をこちらへ放った。

「うわぁ!!」

俺は咄嗟に、カレンの後ろに隠れた。