目が覚めると見たものは、見慣れたあの顔ではなくて、もう二度と見たくなかった顔だった。

え?なにこれ夢?そうだよね?夢だよね。
だって、あり得ないでしょ?ここは魔王城だよ?この人騎士でしょ?王宮の。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?

女騎士が口を開いた。
何を言われるのか、怖くて目を閉じた。
だが、それは杞憂だったようだ。

「君も、さっさと出てってよ」

魔王の声だ。
魔王が来た!
ばっと声のした方を見て、その背中に隠れた。
魔王が居るだけで、随分と気が楽になった。

「貴様、何者!」

焦ったような女騎士の声が聞こえた。

「魔王様。
てゆうか、さっきも同じ質問されたよ。君のお仲間にね」

対して、魔王はひどく落ち着いた声だ。

「まさかサクッ!ガハッ!」

女騎士の言葉が、なにかによって途切れ、なにかが床に落とされたような音がした。
見てはいないから、よくわからないけど、なにやら女騎士が襲われたよう。

「黙れよ。さっさとお仲間のところに行きなよ。ここは、君みたいな人間が入ってきていいところじゃない」

「ガッ!」

ドスっと、聞いたことのある音がした。
身体を、殴る蹴るされた時の音とよく似ている。

続け様に聞こえるその音を、それ以上聞きたくなくて、魔王の手を引いた。

「ん?どうしたの?怖くなっちゃった?ちょっと待っててね。今このゴミ片付けさせるから」

魔王は指をパチンと鳴らした。
数十秒後に、ステさんが来た。
急いで走ってきたようで、少し息がきれてた。

「分別しといて」

魔王が言ったのはそれだけだけど、ステさんは了解しましたと頷き、女騎士を連れて(引きずってとも言う)出て行った。

「…はぁ」

ため息と共に、膝の力が抜ける。
その場に崩れそうになったのを、魔王に支えられた。

「大丈夫?ベッド行く?」

首を振って、魔王の手を握る手に力を込めた。

ベッドに行くよりも、魔王がいい。

そんな意味を込めて。

「じゃあ、座ろう?立ったままは疲れちゃうでしょ?」

魔王に促されるまま、さっきまで座っていた椅子に座った。
でも、ただ座っただけじゃ、なにか物足りなかったので、一度立った。

「どうしたの?」

戸惑う魔王を椅子に座らせ、その膝に乗る。

…落ち着く。
ここはとても安心する。

「魔王、助けてくれて、ありがと」

「どういたしまして」

魔王は、私の頭を撫でた。
その絶妙な撫で加減と、背中に伝わる魔王の心拍を感じている内に、再び睡魔が襲ってきた。