「しまった。私としたことが」

私は自分の失態に舌打ちしそうになった。
ここは魔王城の廊下。
そこから見える庭などを見ている場合ではなかった。
戦場で仲間と逸れるほど、愚かな行為はない。
急いで来た道を戻らなければと、方向転換した時だ。

(あれは…まさか)

ここからはよく見えないが、三階の窓に人影のようなものが見えた。

もしかしたら、ここに人間が攫われてきているのかもしれない。
そう思うと、自然に足がそちらへ向かっていた。

庭を突っ切り、人影の見えた部屋の下へ行く。
ここからどうしようか。
この壁を登るか。
いや、足場になるようなものがこの壁にはないため却下だ。
この窓を破り、そこから階段を捜すか。
いや、それならばさっきの廊下に戻り、階段を捜した方がいい。

(待っていろ。すぐに助けてやるからな)

私は駆け出した。



以外とすんなり階段は見つかり、一気に駆け上がる。

おそらくこっちだろうと、ほとんど勘で突き進む。
幸いにも、まだ魔物などは出てきていない。
不気味なほどにひと気がない廊下を進み、時々見つかる扉を開けて行く。

しばらく進むと、小さな少女を見つけた。
かなり身なりの良い子だ。
おそらく、貴族の子供が攫われ、今も脱走しようとしているのだろう。
私は迷いなくその子に声をかけた。

「怪我はないかい!お嬢さん!」

その子は目を見開き、こちらを見た。
可哀想に。ずっと緊張していたのだろう。今も敵に見つかったと思っているのだろう。

「大丈夫だよ。お嬢さん。私は君に危害を与えるつもりはない。だから」

だから安心しなさい。と続くはずの言葉は、途中で遮られた。
少女から伸びた多くの剣によって。
それは、私の顔を掠め、瞬時に後ろへ下がった。
少女から放たれたものは二つ。
剣と、殺気だ。

「だまりなさい。げしゅのなかまのくせに」

ピリピリと空気が張り詰める。
少女から放たれた殺気は、下手すると魔物よりもすざましい。

「貴様…!何者だ!!」

少女は不敵に笑い、その小さな手には似合わぬ、禍々しい光を放つ大剣を呼び出した。

「げしゅになのるような、やすいなはありませんわ」

「なっ!」

「まおうさまのちょくれい。
しんにゅうしゃのはいじょ。
すいこうさせていただきますわ!!」

少女がその大剣を振りかざした。
剣の重さを感じさせない俊敏な動きが、只者ではないことを表す。

ゾクゾク

背筋が震える。
怯えのためではない。
強者を前にした時の高揚感。

「これは、楽しめそうだな…」

大剣を愛剣で受け止める。
すぐにお互い距離を開け、構えをとる。

「かかってこい。餓鬼が」

「そのくち、いっしょうはなせないようにしてさしあげますわ」



__ 魔王城 三階 西廊下 にて カレン vs エテリーヌ・フランソワーズ 戦闘開始 __