「マキちゃんマキちゃん」

「なに?」

「今日はちょっと危ないから、部屋から出ちゃ駄目だよ?」

「は?危ない?」

いつも通り、チューしよーとか言われると思ったが、予想外の単語が出てきた。
危ないってなんだよ。
どっちかって言うと、あんたの方が危ないと思うんだが。
なぁ、魔王様?

「そ。アレが入ってきちゃったみたいでね」

「アレ?」

アレってなんぞ。アレってあれか。ゴのつく虫か。
ピーー(自主規制音)か。

「そう。それそれ」

「嘘!!」

寒気がして、床につけていた足を床から離した。
想像するのさえ躊躇う黒光りするあの忌々しい虫が、この魔王城に居るだと…!?

「この城の警備はいったいどうなってんの!?」

ここお城でしょ!?魔王城でしょ!?警備ぬるすぎ!!
いやでも、アレはどこから侵入するかわかったもんじゃない。
それに1見つければ30は居ると言うし……。

「キラー!キラーはどこ!?」

私は、昔の最強の相棒の名前を呼ぶくらい取り乱していた。
この世界にもピーーが居たことを突っ込む余裕などない。
近くにあるものに必死でしがみついて、目をつぶる。

するとしがみついたものが動いた!

「大丈夫だよ。マキちゃん。まだこの階までは来ていないから。それに、ステに駆除依頼出したし」

ステさん最高!!

どうやら私がしがみついてたのは魔王だったらしい。
上からなだめるような声が聞こえ、背中を優しく撫でられる。

「ね?だから安心していいよ。
マキちゃんの目には入らないようにするから」

魔王ありがとう!大好き!!

「僕もマキちゃん好きだよ」

「さ、魔王仕事」

ここまで来てないなら問題ない。
いつも通り、魔王は仕事をしなさい。

「えー」

そこ、不満そうな顔しても意味ないよ。