「マキちゃん、大好き」

ついに、夢の中にまで魔王がでてきた。
しかもこの台詞。
私の深層心理では、こんなことを言ってほしいと思っていたのか。
地味にショックだ。
自分がどれほどやつに依存しているかがわかる。
こうなったら、最早手遅れ。
後はただ、堕ちていくだけ。
過去の経験から、こうなった私がどう行動するのか、簡単に思いつく。

まず、周囲から徹底的に女を排除しようとするだろう。
だが、それはほとんど必要ない。
何故なら、魔王城に女はいないから。
以前、魔王が言っていたことだ。
唯一、ここを出入りするのはエーテルちゃんだが、それは排除の標的にはならない。
友達だもの。

そして、魔王の気持ちが離れていかないように、努力する。
美容や言葉遣い、性格にいたるまで、様々な部分で、彼の好みに合う女の子を演じるだろう。

私はそれがいやだ。
ありのままの自分を愛してほしいと願う。
でも、そこまで自分自身に自信があるわけじゃない。
そう言って、私はなにかと理由をつけては、それが正論だと思い込もうとする。
あぁ、そんな自分がいやだ。
わかっているのに、そうすることをやめられない。

そうまでして、何故愛を望むの?私。



理由がほしいのよ。
私が存在する理由を求めているの。
それが、愛だっただけ。
それは、あなたが一番理解しているでしょう?私。



えぇ。理解しているわ。
私はとても儚い存在。
いつなにがあってもおかしくない。
消えてしまうかもしれない。
でも、存在していたいと願うの。
そうでしょう?私。



そうよ、私。
あなたは巻き込まれたの。
あなたがこの世界にいる理由はない。
なら、自分で作るしかないでしょう。
ここで、生きる理由を。



そうね、私。
私に存在する理由を、生きる理由を与えてくれるのは、愛で、魔王よ。

ありがとう、私。
気持ちの整理がついたわ。



どういたしまして、私。
あなたに光あれ。



私の中の私と話す。
これは、初めての経験だ。
たったこれだけで、こんなにすっきりと、魔王への気持ちを受け入れることができるなんて。

「マキちゃん、話は終わったの?」

終わったわ。
私の中の私と話す時間は長いようで、短い。
でもきっと、あなたを待たせてしまったでしょう?
ごめんなさいね。

例え夢の中だとしても、印象はよくしておきたい。
あなたに好かれていたいの。

「そっか。でも一つ、言わせてくれる?」

どうしたの?

「僕はね、ありのままのマキちゃんが好きだよ」

あぁ。やはり夢は夢。深層心理が色濃く映されている。
そうわかっていても、嬉しいわ。

ありがとう。
私も、どんなあなたでも、大好きよ。

どれだけ冷徹で、残酷だとしても、あなたを受け入れる自信があるわ。

「ありがとう」

魔王の透けるような笑顔が歪んだ。