「マキちゃん仕事終わったぁ」

心底疲れたというような、情けない声で私の腰に手をまわした魔王の頭を、軽く叩いた。
魔王はその体制のまま、ぽてっと膝の上に倒れ込んだ。
つまり、膝枕である。
いつもなら、すぐに落とすのだが、

「ハイハイ。お疲れ様でした。頑張ったね」

あの後、ずっとエーテルちゃんと話して、私の期限はうなぎ上り。
たまには飴も必要かな、と、頭に乗せた手でそのまま撫でてやった。
すると、魔王は撫でていた手を掴み、顔をこちらへむけた。

なんだろう?と、魔王の顔を見つめる。

魔王は空いてる方の手で私の頬を撫でた。
さっきまで書類を扱ってたせいか、少しかさついた手がこそばゆい。
掴まれていた手もゆっくりと移動し、指に絡みつき、最終的には恋人繋ぎになった。

「どうし「マキちゃん」」

私の言葉を遮り、魔王は私の名を呼んだ。
返事の代わりに魔王の目を見る。
そこで初めて、ずっと見つめられていたことに気づいた。
その顔は真剣そのもので、少し、息を飲んだ。

「僕ね」

ゆっくりと、言葉を発する。
私はただ、魔王を見つめた。

「マキちゃんのこと、好きだよ」

ひゅっと言葉が詰まった。
告白なんてされたのは初めてで、嫌でも頬が赤くなる。
魔王は、いつもチューしたいなんて言っておきながら、一度も私に好きとは言わなかった。
それが当たり前になっていた。
好意を伝えてほしいと望んだわけではない。
でも、この高揚感はなんだろう。

「マキちゃんは?」

体の芯から、暖かさが溢れ出てくる。
それが全身を回り、まるで波が引いて行くように、私の感情から必要ないものが抜けて行く。
残ったのはそう。

嬉しさと、愛おしさ。

嬉しい。愛おしい。

涙とともに口からこぼれ出た言葉は、たった一言。

「好き」

魔王は、そうするのが自然のように、頬を撫でていた手を後頭部に回し、私の顔を自身の唇に押し付けた。