「マキちゃん、チュー」

「…でて…け」」

寝起きのため掠れた声で、最も重要な言葉だけ放った。
言葉では表せない忌ま忌ましさを頭のネジの外れた魔王をげしげしと蹴ることで、発散させる。
つか、私はこいつにここが何処だかわかっているのか問いたい。
ん?どこかって?
私の、自室の、ベッドの中だよ。

信じられないことに、こいつは夜、鍵のかかっていたはずの部屋に忍び込み、一緒のベッドで添い寝していたのだ。
そう思うと、自然と蹴る足に力がこもる。
まあ、服も着てるし、身体に異常はないので、そういうことはしてないと判断し、特別に許してやろう。
二度目は許さん。

「マキちゃん、ひどいー。蹴るなんてー」

その間延びしたふざけた話し方に私は眉間に皺を寄せた。
蹴られるのが嫌なら、叩いてやろうか。

まったく出て行く素振りを見せない魔王の頭を軽くはたき、私がベッドからでる。
着替えは…クローゼットか。
この無駄に広い部屋を移動し、クローゼットを開く。
振り返り、いつまで経っても、動く気配のない魔王にもう一度だけ言う。

「でてけ」

「…はーい」

明らかに不満そうに言う魔王に、近くにあった髪飾りを投げてやった。