いい匂いが鼻をくすぐる。
私たちは今、城下町へと視察に繰り出していた。
魔界だから、真っ暗ってこともなく、普通に明るく、賑やかな屋台が並ぶ。
その見たことのない食べ物、一つ一つに目を奪われる。

「これはなに?」

私が特に面白いと思ったのは、焼き鳥みたいに中心を貫かれたカラフルななにかだ。
どれも不思議な形をしている。

「それ?それはカルフォニアの串刺しだよ。ここらへんではよく食べられてるみたい」

「カルフォニア?」

「んー、人間界の、ピューロンドの串刺し、かな?」

「ピューロンド?」

「…あ、そっか。マキちゃん、記憶ないんだもんね」

「…うん」

あぁ、嘘をつくのって重たい。
罪悪感が半端ない。

「まぁ、僕が説明するより、実際に食べてみた方がいいね。
カルフォニアの串刺し、二本頂戴」

声をかけられた牛?みたいな魔物が嬉しそうに声をあげた。

「モォー!魔王様バンザーイ!」

馬の蹄のような手で、器用に串刺しを持ち、たれかなにかをつけて魔王に渡した。
魔王は金色っぽいお金を牛に渡す。
一本二百五十円で、合わせて五百円かな?
まぁ、そんなわけで、串刺しは私にも回ってきた。

じっと観察すれば、それは肉のようだった。
地球では考えられない色だが、色を脳内変換し、茶色にすれば、肉っぽい。つか焼き鳥の大っきい版。
立ち食いは行儀悪いけど、この腹が食べ物を全力で欲している。
ゴクリと唾を飲み、魔王をチラ見する。

「食べていい?」

「どうぞ」

魔王にいい笑顔で頷かれたのをいいことに、私は串刺しにかぶりつく。
口の中で肉汁がジュッと溢れ、たれと混ざり合う。
それが奏でる絶妙なハーモニーと、程よい食感が私を一瞬でとりこにした。

うんまぁぁあああああ!!

美味しい美味しい!!葵ちゃんの料理と並ぶくらい美味しい!
最近は、味が…なものばかりだったから余計に美味しく感じる。
つか城の料理より城下町料理方がうまいってどゆこと。

「美味し?」

魔王の言葉に全力で頷く。
これは美味しい。やばいくらい美味しい。

至福の時間はあっという間に過ぎてくもので、串刺しは腹の中に消えた。
ちらりと魔王を見ると、まだ串刺しに口をつけていなかった。

「魔王は食べないの?」

「んー…。マキちゃん、いる?」

魔王は一瞬悩むと、私に串刺しを差し出してきた。
これは、このままかぶりつけってことですか。
色んな魔物がいる、こんな場所で?

私は少し迷うが、あの至福の時間をもう一度味わいたいという欲望には勝てなかった。
串刺しにかぶりつこうとしたとき、それは魔王の口へ引き寄せられて行った。

「やっぱりだーめ」

ついそれを目で追う。
魔王は見せつけるように、串刺しを一口食べた。

「!!」

何という嫌がらせ。
期待させるだけさせといて、結局は自分が食うのか。
きっと魔王を睨みつける。

魔王はニッコニコの笑顔で首を傾げる。
まるで、僕、なんも悪いことしてないよ。とでも言うように。
でもまぁ、確かにそうだ。
この串刺しを買ったのは魔王だし、私は奢ってもらった立場なのだ。
挙げ句の果てに、もう一本食べたいなどわがままにもほどがある。

少しだけ反省しながらも、魔王を睨み続け、その形のいい口に肉が消えて行くのをじっと見ていた。