この世界は魔王の恐怖に支配されている。
いつ、魔物が襲ってくるかもわからない。
そんな恐怖と対抗するために、人々に安心感を与えるために、研究者たちは、日々研究を続けた。
人々の間で対抗する手段など、ないのではないかと囁かれ始めた頃、ある天才少女が1つの解決策を生み出した。

『異世界から、勇者を召喚する』

突拍子もない話ではあるが、少女はそれを実現してしまった。
普通なら、1人召喚出来ただけでも奇跡なところを、1度に2人も召喚してしまったのだ。
そして現在、勇者は日々、魔物と戦っている。




まぁ、そんな勇者の話はおいといて、




「マキちゃん、マキちゃん。チューしたい」

信じられないことだが、私が膝に腰をおろし、そんな私の頭に顎を乗せてとんだ戯言を言ったこの男こそ、この世界を恐怖に陥れたあの魔王である。
正直言って、邪魔だ。
こうも頭に負担がかかると進む箸も進まない。
余談だが、この箸は自作だ。
かなり上手く出来てると思う。

「はいはい、まずご飯食べさせてね」

「うん、待ってる」

出来ればきちんと椅子に座りたいのだが、それは不可能だろう。
魔王は顎を乗せたまま頷き、私の顔もそれと同時に動いた。
何故この体制なのだろうか。
不便で不便で仕方が無い。

小さくため息を吐き、卵焼きもどきを口にいれる。

「………しょっぱい」

改善されない体制と、卵焼きもどきの味に再びため息がこぼれた。