―ずっと来ていなかった病室は、綺麗なままだった。


少し開けられた窓からは、心地よい風が入ってきて、薄いカーテンを揺らしていた。


父と康介が毎日手入れする母も、綺麗なまま、


少し笑っているように見えた。




ベッドの横に座り、恐る恐る、


母の手を握った。








僕よりずっと小さくなったその手は、少し冷たかった。


「…っは、なんだ…。」


ずっと、あんなに怖がっていたことなのに、もう怖くはなかった。




「今まで、逃げていてごめん、母さん。」


過去には戻れないし、もう叶わない。



僕の手から、少しずつぬくもりが伝わって、母の冷たかった手を、温めた。



そうだ、叶わないなら、こうやって僕が返せばいい。







「僕もあなたが、大好きだよ、母さん…。」




















―あれはきっと、猫のイタズラだったんだ…―




【END】