大樹は「俺なんか気にすんな。」って「もう来るな。」ってよく言ってたよね。

私のことなんか気にしなくてよかったのに大樹はいつもそんなことばかり言って遠ざけようとしてたよね。

大樹はもうそんなに生きられないってわかってたから自分からどんどん皆を遠ざけてた。

それで大樹が傷ついていることも知ってたよ。

そんなことばかり言ってたから大樹のお見舞いに来る人はどんどん減っていった。

大樹はそれを笑って「清々した。」って言ってたけどちゃんと笑えてなかったよ。

やっぱり大樹は馬鹿だよね。

私の前でそんな無理しなくていいのに

だけど私は抱きしめてあげることしかできなかった。

今でもあの君の体温を思い出せるよ。

私よりも背が高いくせにとても小さく感じた大樹を、今でも思い出せる。

ねぇ大樹、何であの時君は一度も抱きしめ返してくれなかったの?


そういえば大樹は、病だとわかってから一度も私に触れてこようとしなかったよね。


どうしてかなって考えたこともあるんだよ。

優しい君のことだからきっと私のためだったんだろうけど、私はもっともっと触れてほしかった。




高校の時みたいにふざけあいたかった。

髪を結んでほしかった。

頬についた食べ残しを取ってほしかった。

頭を乱暴にでもいいから撫でてほしかった。




でも本当はもう一度だけ手を握ってほしかった。



学園祭の時にはぐれるからって私の右手を緩く繋いでくれたように

もう一度でもいいから繋いでほしかった。