彼の勤める会社は私の取引企業のひとつだ。
私は彼の会社に足を運ぶことが月に一度はある。
直接彼とは商談する機会はないけれど、会議室に向かう傍ら、彼の所属する部署の前を通り過ぎる。
普段とは違った精悍な顔つきでデスクに向かい、部下に指示を出す彼の姿。
一瞬見かけるその光景だけでも、胸にとくんとときめきを運んできて、誇らしい気持ちになる。
けれどその気持ちだけではなくて、彼に頼る部下が女性だったりすると、浮かれていた心がぽっかりと宙に浮いて寂しくなってしまう。
「そう、拗ねるな、拗ねるな」
茶化すような声は、私に余裕をなくさせる。
「拗ねてません」
「拗ねてる、拗ねてる」
自分だけが大人になったような、面白がる声にカチン。
「あのねー!」と反論を唇に乗せて、彼の挑発的な瞳に挑む。

