「お前がわるすぎるんだよ。コンタクトしてねえの?」
「ちょっと痛くて、昨日から眼鏡にしてるの」
不意に頬に触れた彼の指が、夜露に濡れたようにしっとり冷たい。
その指が私の顔を上げさせる。
「ホントだ。右目が赤い」
「よくわかるね」
覗きこむようなねっとりした彼の視線。
黒い塊に、刺激されたのだろうか。
「オジサンはここまでだな」
「確かに、白髪が増えたと嘆く人はオジサンよね」
「お前も人のこと言えねえだろ? 小皺、目元にできてる」
瞳だけを見ているわけではなかったのか。
「人の気にしていることを」と、私は拗ねる振りをする。
彼の、小さく笑う声が聞えた。

