こいのはなし



風が吹いたかのように遠くの茂みがゆれ、彼は「さかってる馬鹿がいる」とげんなりした顔で肩を落とす。


「これが部下だったら、泣くな俺」


場所移動するかと彼が歩き出す。

私は小走りで追いかける。


「これさ、いっそのこと結婚指輪にする? 私、婚約指輪いらないし」

「ナツナなら、そう言うと思ったよ」


立ち止まった彼が、左手を差し出す。

それに指を絡めると突然彼は私を引き寄せ、かすかに唇同士が触れる。


「俺もまだまだ、若かったらしいな」


瞬きをするような一瞬のことだったけれど、彼の頬が月明かりの下でもくっきり赤い。

不意のキスも、照れている顔も、私の心臓に大きな音を立てさせる。