僕たちは堤橋をこえて、

すぐそこにウチが見えるとこまでやってきた。


「・・一つ、
 聞いていかい・・?」


「あ、はい。
 なんですか?」


「・・君は最初から‘自分’を知っていたのかい?」


僕が聞くと、彼女は優しく笑った。

そして安堵の表情を見せた。

その瞬間、2人の間の秘密が宙に舞った。

「いいえ、
 わかりませんでしたよ?」


「・・自分のことなのに?」


「はい、
 平凡なOLとばかり思ってました。

 あ・・でも途中で確信しましたよ、
 今までの記憶がよみがえってきたんです」


そう言って彼女は笑った。


「・・それは・・・
 ものすごく不思議な話だよね・・」


「・・そうですねぇ・・
 あなたは、いつからなんですか?
 まさか最初からだなんてことはないですよね」


「うーん、
 僕はなんとなく、少しずつ、・・・かな?
 確信したのは、
 君が‘もやし’のことを口に出した時だよ。
 それは僕たちしか知らないことだしね、」


そう言って僕も笑って返した。

それを見て、

彼女もお得意の笑顔で返す。


ついに二人は、

僕の部屋の前までやってきた。


「・・やっとわかりましたよ、
 《ゆっくりたべなさい、安心しなさい》の意味。
 おかげで今日はゆっくり食べることができました。」