「はるく、あのね…」

私が顔を上げたらはるくとちょうど目が合う。

それだけで幸せだった。

「さっき、ね、安美と話したんだ…」

はるくの目が一層大きくなった。

「安美から逃げ続けるのは卑怯なんじゃないかって、思ったの…」

そう。卑怯な私で、はるくと向き合う自信は無くて、だから安美と向き合わなきゃと思った。

一階のトイレからまっすぐ教室に向かった私は安美を探した。

教室の外の廊下に安美の姿はいなくて、教室の中に入る。黒板の前で、取り巻きたちと談笑する安美がいた。

私は安美の笑い顔に視線を合わせて向かっていった。
そんな私に、最初に気付いたのは安美だった。

私を見て苦い顔をしたけれど、すぐに視線を逸らして取り巻きたちに笑顔を振り撒いた。

「安美」

私が声を掛けると取り巻きの一人が振り向いたけれど、安美が反応しないのに気付いて私のことは見えないフリをした。

「安美、話しがあるの」

もう一度声を上げたけど、誰にも届かない。取り巻きたちは声を殺して笑った。

「安美」

取り巻きたちを掻き分けた。
安美の目の前でもう一度言った。

「安美、話があるの」

笑い顔を浮かべたままの取り巻きとは対照的に、安美は露骨に嫌な顔をした。

無視をされるかと思った。
でも、安美ははっきりと言った。

「もういいよ」

私は今までの勢いを挫かれて声を出せないでいた。

安美に何を言おう。どうやって言おう。
そればかり考えていた。

「ちょっとー安美ー?」

安美は取り巻きたちの輪から離れると教室の外に出ていった。