「あら?また泣きそう。」


「な、泣きそうじゃない!」



お兄さんはいない。
そんなのはとっくにわかっている。


ただ、今までそこから抜け出せなかっただけ。

お兄さんとの思い出にすがって、カメラに没頭して、お兄さんとのつながりを保っていたくて。


あたしは、これからもお兄さんとのつながりを断ち切ることはないし、生きがいであるカメラを手放すこともない。



「ひかりはバカだね。」


「ヒドイ!」


「どーせあんたのことだから、お兄さんのこと忘れないと中川くんに失礼だーとか思ってんでしょ?」


「…思ってるけど。でも、そうでしょ?」


「だからバカだって言ってんの。
あんたは中学卒業して高校入るのに、中学のときの思い出忘れたりするの?

第一、思い出は覚えておきたいから思い出って言うものであって、忘れたいから忘れるなんて簡単にできるもんじゃないでしょ。」


「でも、好きだった人のこと、忘れないと次に進めない…」


「…ひかりにとって、お兄さんは簡単に忘れられる存在なわけ?」


「…そんなわけない。」


「なら、いいじゃん。お兄さんがいなかったら今のひかりはいないし、サッカー少年とのつながりだってなかった。

ひかりは、お兄さんを忘れようとするんじゃなくて、お兄さんに感謝するべき。」


ふっ と柔らかく口元を緩めてあたしの頬をつねった渚は、本当のお姉ちゃんみたいだ。



「…あたし、やっぱ渚んこと大好きだ。」


「ふふっ あたしの方が大好きだから。」