人の記憶は薄れ行くもの。いくら頑張って記憶しておこうとしても、月日を経るに従って所々にほつれが出てきて、しっかり握っていたはずなのにいつの間にか指の間からすり抜けていく。



この人は、そのほころびに恐怖を感じている。

お兄さんの影が消えていくことに。



「兄は、他の人や風景の写真はたくさん撮るくせに、自分が写っている写真は本当に少ないんです。

兄が死んで、写真も整理したけど、兄が写っているものは小さい頃のもの以外、ほとんどなかった。」



そういえば病院で会ったお姉さんも似たようなことを言っていた様な気がする。

お兄さんは撮るばっかりなんだって。



「だから、久しぶりに兄の顔がみれて、なんて言うか、ああ兄さんがいるって、俺の兄さんはこんなに明るく笑う人だったって、思って…」



お兄さんとの思い出が、蘇ってきたんだね。