いや、厳密に言えば王子様ではない。

彼の着ている制服は、間違いなくウチの学校の制服だし、マントも王冠も持っていない。

でも、彼はミホに負けないくらい白い肌と大きな瞳をもっていて、なによりすらっとしていてかっこいい。

茫然としている私に、彼はふっと笑って「なに?」と言った。

高すぎず低すぎないテノールが耳に心地よい。

「あ、えっと…」

と、私がしどろもどろになっていると、彼は「あぁ、」と何かに気づいたように私に向き直った。

なんだろう?

顔が熱い。

「REDの鼻歌、うたってた?」

かあぁぁっっと熱さが耳まで広がるのがわかる。

誰もいないと思って油断してた。

REDはこないだミホが教えてくれたバンドグループで、私のお気に入りなのだ。
ミホは最近は、もうREDに興味ないと言っていたけれど、あんなにステキな曲を、私はなかなか忘れられない。


私は恥ずかしくなって、震えた足を叱咤して、彼とは逆方向に走った。