どうやら私は人にぶつかってしまったらしい。
前を見上げれば男子生徒が一人、私の方を窺っていた。
「ごめんね?大丈夫だった?」
「あ、ああ。」
男子生徒は私の腕を掴むと、軽々しく私を立ち上がらせた。
コイツ……
見た目以上に力あるな…。
「ほんとごめんね?怪我とかない?」
「いや、平気だ。よそ見していたのはこっちの方だしな。悪かった。」
「いいえ」
にこっと男子生徒は笑った。
黒い髪、着込まれた制服、ピアスの痕もない。
この学校には珍しい優等生だな…。
まして風紀委員でもないのに。
「そっちこそ、怪我はないか?」
「………」
「……?おい、やっぱりどこか痛めたんじゃ」
「いえ、大丈夫です。ただちょっと…」
そこで男子生徒は含み笑いをする。
「ちょっと?」
「面白い方だな、と思って。」
「は?」
「奈美さんって格好いい方なんですね。」
クスクスと男子生徒は笑って、横切っていく。
「おい、ちょっと待て。どうして私の名前を…?」
「だって有名ですよ。風紀委員長、山神 奈美さん。この学校で知らない人は居ないんじゃないかなぁ?」
私は眉をしかめた。
そのまま去ろうとする背中を、私は再び呼び止めた。


