ごめんねー、と肩を竦め笑う白石を本気で殴ってやろうかと思った。



「……お前、性格悪すぎだぞ。」
「そう?学校ではそんな風に言われたことないけどな。」
「この……二重人格め」
「せっかく昨日助けてあげたのにな。恩人にそんな事言うんだ?」
「うっ……」



コイツ、本当に性格悪いな。



「それに関しては、感謝してる……そうだ、これ。」


忘れる前に返そうと、ハンカチを取り出す。



「昨日は迷惑をかけたな。ありがとう」



白石は差し出したハンカチを暫く見つめ、突然笑い出した。



「おい、一体何がおかしい?」
「ああ、ごめん。奈美ちゃんって本当真っ直ぐなんだな。」



……これは、馬鹿にされているのか?



「どういたしまして。」



ハンカチを受け取った白石の顔は、今までの笑みとは違う優しいものだった。


「なんだ……」
「?」
「そういう顔も出来るじゃないか。そっちの方がいいぞ。」
「……俺、今口説かれてる?」
「……やっぱお前は馬鹿だ。」


私は踵を返して歩き出す。


「どこ行くの?」
「帰るんだよ。用も済んだしな。」
「ふーん。……奈美ちゃん」


呼び止める声に首だけ振り返る。



「また明日ね。」
「……出来れば顔を合わせたくないな。」


私は盛大なため息をついて、路地裏を後にした。



これが――波乱の幕開け。