「谷 裕也さんですね?」
あたしの言葉に、震えながらも小さく頷く彼。
そんなに恐れているならやらなければよかったのに。
覚悟も無いくせに、あたしを殺そうとしたことが許せない。

あなたは幸せ者なんだよ?
あたしは、小さくそうつぶやいた。
弾かれたように、俯いていた彼は顔を上げた。
優しい両親に今でも守られて、可愛がってくれる姉も居て。
こんなに綺麗な、若い奥様も貰って。
彼の隣に座る、女の人を見た。
話の内容が理解できないのだろうか、あたしと彼の顔をまじまじと見つめている。
「あたしが、憎いですか?」
あたしの目を見るように言ってから、そう尋ねた。
裕也さんは一瞬面食らう。でもすぐに真顔で頷いた。

「あんたが、憎い。京ちゃんを私から奪ったあんたが。」
瞳には憎悪の感情が篭り、あまりの怒りの所為で一人称が私になっていることに気が付いていない。
奥さんが驚いたように彼を見るも、それすら気付いていない様子だった。
あたしは冷静にそれを聞きながら、彼に言葉を返した。
「あたしも、京さんが憎かった。」
井森 京。両親を殺した、張本人。
あの人の顔を思い出してこぶしを握る。
悔しくて、憎らしくて。あの感情は、一生忘れないと思う。
怒りに震えるあたしの手に、陸の冷たい手が被さった。
横目で陸を見る。