『安心しろよ。ヨリは戻さない。』
戻せないんだから。
「勇姫っ‼」
『今なら、傷が浅くてすむだろ。』
「ッ…」
俺の目をじっと見つめて話していた海王が俺の言葉に顔を俯かせた。
「それは…。」
『あ？』
小さな声でボソッと言った海王の言葉が聞き取れず、聞き返す。
「"誰の"傷があさくすむんだよ…。」
『かい…お…う…？』
"誰の"傷…か。
決まってるだろう？
あゆかだ。
『あゆかに…決まってんだろ？他の誰の傷を浅くすませるんだよ。』
俺のその言葉に海王は溜息をついた。
「お前は、もっと自分の心を知った方がいいと思う。」
海王のその言葉に疑問を抱いた。
『は？』
「授業始めるぞー。席つけー。」
『あ…。』
海王に声をかけようとすると、授業を始める先生の合図がかかった。

その日は、なんとなく海王と話しづらくて、言葉を交わすことなく家に帰った。
あゆか以上に傷ついて欲しくない人間はいない…。