「・・・他に、好きな人がいる。」
目をふっと逸らしながら勇姫は言った。
その言葉がきちんと理解できない。
『好きな人・・・?』
「っ・・・うん。そ・・・の子に、告白されて付き合うつもり。だから・・・。」
ーパンッ
私は、勇姫の頬を思いっきりたたいていた。
無意識だった。
乾いた音が鳴って、ようやく我に返った。
赤く手のあとのついた勇姫の頬を見たくなくてうつむく。
『最低。』
一言そういって、勇姫に背を向けた。
「俺は・・・あゆかが好きだよ。・・・バイバイ。」
その言葉にばっと振り返る。
悲しそうに笑っている勇姫の顔がやっぱり見たくなくて、私はまたうつむいた。
目の前に勇姫の黒と白のスニーカーが見えた。
ポンっと私の頭を撫でて、勇姫は歩いていった。
待って・・・なんて、言えないまま、勇姫は見えなくなった。
『何よ・・・。』
何よ何よ・・・。
私以外に好きな人がいるんでしょ?
できたんでしょ?
なのに、どうして・・・。
どうして、”俺はあゆかが好きだよ”なんていうの・・・。
これじゃぁ・・・
『あきらめらんないよ・・・。』
頬に一筋の涙が流れたと思ったら、目から次々と涙が溢れてきた。
『ふっ・・・ふぇ・・・。』
空は、さっきまで青く澄み渡っていたのに、いつのまにか雲だらけになって、雨が降ってきた。
雨が私の服を濡らす。
私の涙と雨が混ざり合う。
これなら・・・。
これなら、分からないよね・・?
そこにしゃがみ込んで涙を流した。
この涙とともに、君への思いも雨で流れちゃえばいいのに・・・。