「なあ、羚弥。さっきの転入生だけどさ、この前俺たちが捜してた人だろ?」


由梨が俺に陽菜のクラスの場所を訊いて教室を出ていった直後、学が弁当を持って話しかけてきた。


「ああ、そうだよ」


俺も弁当食べるかと思い、鞄から出しながら答える。


「思ったより明るいし、クラスからも人気だし、いじめの心配とかなさそうで良かったな」


学がしみじみとそう言ったので、らしくないなと思って吹き出してしまった。


「ちょっ! 羚弥! いきなり笑うとか失礼じゃね!?」


「いやー、わりぃわりぃ……くっ……」


小刻みに震える腹筋を抑え、いったん食べるのを中止してしまう。


「そんなに笑うんだったら、今俺のギャグもしらけないで済むかも! 暑いって言ったら負けゲーム!」


学が目を輝かせ始めた。俺は逆に汚物を見るような目で見つめる。


「暑い! あ、つい言ってしまった……」


「……」


とりあえず俺は無言で弁当を食べ始める。


「いや、あのさ」


「……」


「あの……羚弥さん?」


「……」


「すみませんでした」


「うん」


いろいろなことがあったせいか、ふとこうして学をいじる日々が平凡だなと感じた。


それからしばらく学をいじっていると、陽菜と由梨が俺のところにやってきた。


「えっと……遠矢君。優奈のことありがとう」


俺は「あぁ」と言って陽菜の方を向いた。


「俺はほとんど何もしてないけどな。これからも由梨のことよろしく頼むよ」


「え、由梨?」


「ああ、陽菜。羚弥君にだけはちょっと訳ありでそう呼ばせてるの」


由梨が慌ててそう言うのがなぜか可笑しくて、俺は軽く微笑んだ。


「へー、後で聞かせてもらおー」


「う、うん」


苦笑する由梨とは違い、なぜか薄ら笑いを浮かべて俺を見てくる学を、嫌らしいなと思って見ていた。


キーン コーン カーン コーン


そんな時、チャイムが鳴り、三人は自分の席に戻っていった。