「羚弥君起きてー」


由梨の声が聞こえて、俺はおもむろに身体を起こした。「サンキュー」と言いつつ、無意識に頭とお腹を触る。


……何ともない。


これで、夢の中の感覚は触覚、聴覚、温度覚となった。まさか触覚まで出てくるとは思わなかったが、百回殴られたり蹴られたりする夢で出てこなくて本当に良かったと心から思う。


いずれは視覚も出てくるのだろうか。そうなれば全てを思い出すのもそう遠くはないだろう。


「羚弥君、ご飯出来たよー!」


「今行く!」


俺はその言葉で我に返って、着替えた後、すぐに食卓へ向かった。


「ついに入学だねー」


朝食中、母さんがニコニコしながら由梨に話しかけた。


「そうだねー。もう既に緊張し始めてる」


母さんの高校時代の制服だという服を身につけている由梨が、不安そうに、でもどこか嬉しそうにそう言う。


「でも、入学っていう言葉が不自然だよな。事情を知らない皆にとっては転入生にしか見えないのに、転入でも編入でもないからって途中からでも入学になるのがさ」


「そんなことはどうでもいいんだよー。男ってのは変なとこに興味がいくのねー」


母さんが冷ややかな目で見てきたので、いつものように反抗した。


「そんなことはない! まあ、でもいざとなったら俺がいるし、頼ってくれよ」


「ありがとう、羚弥君」