夢の欠片

こうして堂々と歩けるのは一年ぶりかな、としみじみ思う。今までずっと逃げる生活をしてきたから、こんな日が来るなんて思ってもいなかった。


ただ、これからお母さんに会うと思うと、心臓の音が羚弥君に聞こえるんじゃないかってくらい緊張する。成功する保証はどこにもないし、したとしても、私は羚弥君に会えなくなってしまうだろう。


「あ、いた」


羚弥君が私のボディガードの人たちを見つけてそう言った。


ボディガードの人たちも私を見つけたようで、「優奈様!」と駆け寄ってくる。


ふと、このままボディガードの人たちが私を連れて行ったらどうなるのだろうかと思った。


楽しかったカレーパーティー、気楽に話せる家族。普通の生活だけど、私にとっては普通じゃない生活。それらが全てなくなって、楽しいとはほど遠い生活が待っているのだろうか。


そう思うと悲しくなった。


「ねえ、羚弥君、お願いがあるんだけど」


会えなくなるかもしれないから、きっと思い出して楽しかった日々を羨むだろうから。


「何だ?」


そんな日々を与えてくれた羚弥君をもっと近くで感じたい。


「抱きついていい?」


「え、今なんて……」


ボディガードの人たちの視線なんて関係ない。


「聞こえなかった? 抱きついていい?」


「あ、あぁ……」


自分の身体が少し震え出している。身体が冷えてはいるけど、この震えはきっと、過去のトラウマによるものだ。


「ありがと」


それでも私は歩み寄って、力いっぱい彼を抱きしめた。


小刻みに震える身体が、徐々に徐々に止まっていく。冷えた身体も不思議と温まって、心地よいとさえ感じる。


でも、何でだろう。すごく恥ずかしくて、お母さんに会うと思う以上に心臓が激しく踊っている。緊張はしてないのに。こんな感情初めてだ。


「優奈様、その男が何者かは知りませんが、帰りましょう」


「分かってる。もう少しだけ、このままにさせてほしいな」


「分かりました。それでは車を手配しておきますね」


「ありがと」


それから数分で車が来て、私は羚弥君から離れた。


「さあ優奈様、お乗りください」


「うん。ねえ、彼もお母様に会わせたいんだけど、乗せてっていい?」


「いや、しかし……」


「お願い」


「……分かりました。さあ、乗って!」


羚弥君が私に笑顔を見せた。


「さあ、行こうぜ」


「うん」


私たちは車に乗り込んだ。