「ハァ……ハァ……」
あの公園にたどり着いた時には、既に体力の限界が来ていた。
日は完全に落ち、もはや街灯の明かりだけが頼りとなっている。
「由梨、いるか……」
疲れで語尾が小さくなる。息切れが激しい。
「由梨……」
やっぱりいないのだろうか。手遅れだったのだろうか。そう思いながら、思い出のブランコに近づいていく。
その時、か細い声が聞こえてきた。
「羚弥……君?」
「由梨?」
俺はその声が聞こえた方を見た。
そこは、あの時と同じ、ブランコの後ろの木の影だった。そして、あの時と同じく、由梨は裸だった。
「ばかやろう……もしかしてと思ったら……」
膝に手をついて息を必死に整えながら、俺は由梨を少し睨みつけた。
「だって、こうするしかなかったんだもん……生きるためだから……」
由梨はまた涙声だった。
「そんなわけないだろ」
俺は由梨にあと二、三歩で届く距離まで近づいて、彼女の潤んだ瞳を真っ直ぐ見つめた。
「お前の気持ちが正直じゃねえか。怖いんだろ? 多分、俺も含めて男全員のことが。別に俺は怖がられようが嫌われようがどうだっていいんだ。でもな、お前のために泣いてくれる友達がいるということを頭の中に入れておけ」
由梨は一瞬目を丸くした。
「陽菜……」
「由梨、いや、優奈。話してくれないか? 今までのこと、辛かったこと。きっと話せば楽になると思うし、俺にできることがあったら手伝うこともできる」
由梨は小さく頷いた。
それから、皆と同じになれなくて辛かったこと、母親が自分を理解してくれないこと、いつまで経っても同じ状態から変わらないから家出したんだということを、彼女は話してくれた。
それを聞いて、俺は彼女が一番何に苦しんでいるかが分かった。
「お前さ、正直言うと、いじめられる原因は自分の母さんにあると思ってるだろ?」
由梨は黙って少し首を下に向けた。
「俺もそう思うんだ。俺が由梨……間違った、優奈の立場なら、母さんがお金に頼りすぎる生き方、考え方をしなければこうならなかったって絶対思うしな。ほら、金持ちだってバレるのも、きっと学校に身につけていく小さな物でさえあからさまに高いからだろ? いじめられたらすぐ転校するのもそうだ。普通、転校なんか金がかかりすぎてやるものじゃないのに、金があるからこそそういう逃げ方を思いついて、実行してしまうんだ。金がある人間っていうのはな、性格が変わってしまうんだ。自分の欲望が叶ってしまうから、自分中心の生き方になる。子供の意見なんか聞くわけがないんだよ」
「うぅ……」
顔は見えないが、涙が落ちたのが見えた。
「でもな! 今は違うぞ。こんだけ大捜索してるんだ。お前の母さんが心配してないはずがない。きっと、なぜ家出したのか理由を訊いてくるはずだ。気持ちを伝えるチャンスじゃないか。俺も一緒に行ってやるから。お前が母さんの前で怖気づいても、俺がきちんと説明してやるから」
由梨は泣き顔を俺に向けた。
「羚弥君……」
「大丈夫、行こうぜ」
俺は笑顔を見せた。
「さあ、早く脱ぎ捨てたワンピースを着るんだ! そこらへんにあるんだろ?」
由梨は急に恥ずかしがって、「あっち向いて!」と自分の後ろにあったワンピースで身体を隠した。
「分かった分かった」
笑ってそう言い、後ろを向いた俺は、ふと空を見上げた。そこには、綺麗な満月があった。
「月、綺麗だな」
「うん」
由梨が着替え終わるまで、俺はじっとそれを見続けた。
あの公園にたどり着いた時には、既に体力の限界が来ていた。
日は完全に落ち、もはや街灯の明かりだけが頼りとなっている。
「由梨、いるか……」
疲れで語尾が小さくなる。息切れが激しい。
「由梨……」
やっぱりいないのだろうか。手遅れだったのだろうか。そう思いながら、思い出のブランコに近づいていく。
その時、か細い声が聞こえてきた。
「羚弥……君?」
「由梨?」
俺はその声が聞こえた方を見た。
そこは、あの時と同じ、ブランコの後ろの木の影だった。そして、あの時と同じく、由梨は裸だった。
「ばかやろう……もしかしてと思ったら……」
膝に手をついて息を必死に整えながら、俺は由梨を少し睨みつけた。
「だって、こうするしかなかったんだもん……生きるためだから……」
由梨はまた涙声だった。
「そんなわけないだろ」
俺は由梨にあと二、三歩で届く距離まで近づいて、彼女の潤んだ瞳を真っ直ぐ見つめた。
「お前の気持ちが正直じゃねえか。怖いんだろ? 多分、俺も含めて男全員のことが。別に俺は怖がられようが嫌われようがどうだっていいんだ。でもな、お前のために泣いてくれる友達がいるということを頭の中に入れておけ」
由梨は一瞬目を丸くした。
「陽菜……」
「由梨、いや、優奈。話してくれないか? 今までのこと、辛かったこと。きっと話せば楽になると思うし、俺にできることがあったら手伝うこともできる」
由梨は小さく頷いた。
それから、皆と同じになれなくて辛かったこと、母親が自分を理解してくれないこと、いつまで経っても同じ状態から変わらないから家出したんだということを、彼女は話してくれた。
それを聞いて、俺は彼女が一番何に苦しんでいるかが分かった。
「お前さ、正直言うと、いじめられる原因は自分の母さんにあると思ってるだろ?」
由梨は黙って少し首を下に向けた。
「俺もそう思うんだ。俺が由梨……間違った、優奈の立場なら、母さんがお金に頼りすぎる生き方、考え方をしなければこうならなかったって絶対思うしな。ほら、金持ちだってバレるのも、きっと学校に身につけていく小さな物でさえあからさまに高いからだろ? いじめられたらすぐ転校するのもそうだ。普通、転校なんか金がかかりすぎてやるものじゃないのに、金があるからこそそういう逃げ方を思いついて、実行してしまうんだ。金がある人間っていうのはな、性格が変わってしまうんだ。自分の欲望が叶ってしまうから、自分中心の生き方になる。子供の意見なんか聞くわけがないんだよ」
「うぅ……」
顔は見えないが、涙が落ちたのが見えた。
「でもな! 今は違うぞ。こんだけ大捜索してるんだ。お前の母さんが心配してないはずがない。きっと、なぜ家出したのか理由を訊いてくるはずだ。気持ちを伝えるチャンスじゃないか。俺も一緒に行ってやるから。お前が母さんの前で怖気づいても、俺がきちんと説明してやるから」
由梨は泣き顔を俺に向けた。
「羚弥君……」
「大丈夫、行こうぜ」
俺は笑顔を見せた。
「さあ、早く脱ぎ捨てたワンピースを着るんだ! そこらへんにあるんだろ?」
由梨は急に恥ずかしがって、「あっち向いて!」と自分の後ろにあったワンピースで身体を隠した。
「分かった分かった」
笑ってそう言い、後ろを向いた俺は、ふと空を見上げた。そこには、綺麗な満月があった。
「月、綺麗だな」
「うん」
由梨が着替え終わるまで、俺はじっとそれを見続けた。
