夢の欠片

「由梨ちゃんいる?」


中三の頃を思い出していた私は、帰ってきたお姉ちゃんの声に反応した。


「いるよー」


「なんか買い物から帰ってくる途中、黒いスーツの人たちが話しかけてきて、聞いてみたら由梨ちゃんを捜してるみたいなんだけど……」


しばらく何も言えなかった。ついにここまで追っ手が来てしまった。


「き、気のせいだよ……」


「でも写真見たら由梨ちゃんだったよ?」


「人違いだと思う!」


「分かったー」


私の中には既に焦りしか残っていなかった。


もうこの家も出ていかなきゃ……こんなに優しい人たちに迷惑はかけられないから……


私はこっそり玄関に向かって靴を履いた。


「ありがとう」


そして小さくそう言うと、そっと扉を閉めて走り出した。