夢の欠片

移りゆく景色を眺めながら、この時が永遠に続けばいいなと思っていた。


何も気にしなくていい、何も辛くない、そんなこの時がいつまでも、ずっと。


「着いたわ」


そのお母さんの一言で、素早く執事が車を降り、お母さんがいる助手席のドアと、私がいる後部座席のドアを開けてくれた。


「ここが新しい我が家よ」


三階建てで、広い庭付きの家を見ながらお母さんが微笑んでいる。


これで何度目の引越しだろうか。全く私を理解してくれていない。


「優奈、見て。いい家でしょ?」


「はい、お母様」


本当は全く良い家だと思わない。もっと質素な家でいいのに。でも、反抗なんかできない。あくまでも、私はお嬢様なのだ。


「それでは入りましょう」


「はい」


中に入ると、センサー内臓のライトがついて、大理石の玄関、広い廊下、大きなエレベーターが映し出された。


もう、最悪だ。何もかも、全部。


「やっぱり良いわね、ここ。でも優奈はゆっくり見てる暇はないわよ。早く着替えて、学校に行きなさい」


「はい」


「今度はいじめられないように注意してね」


いじめ、と聞いて心が重くなった。あと少しでそれが始まってしまう。引越しの理由だって、私がいじめられるからだ。いじめられる原因はお金持ちだからだというのに、お母さんは何も知らない。いや、理解しようとしない。


ただ懇談か何かで私がいじめられていることを知り、原因を知らず、転校すればいいという手段に走っている。


お母さんには逆らえない。自分が正しいと強く思い込んでいるから。だから、私がいくら「いじめられるから質素に暮らしてよ」と言っても、「何でそうなるのよ。他に原因があるのよ」と返されて終わってしまう。引越し、いじめられる、引越しのスパイラルなのだ。


私は憂鬱な気持ちになりながら階段を登っていった。そして、「YUNA」と木彫りされたドアを開け、新しくなった制服を着た後、髪を縛って学校へ向かった。