『げっ! まだいるし』


家を出た俺は、昨日怖れを抱いていた対象の黒い男を見つけ、冷や汗をかいた。そして歩調を速めた。


『それにしても……人数増えてねえか?』


黒い男は百メートルに一人くらいの割合で存在していた。歩いている者、立ち止まって辺りを見回す者、と様々な動きをしているが、格好はどれも同じだった。


『いやー、早くいなくなってくんねえかなー』


そう思いながら俺はひたすら学校に向かって歩き続けた。


俺が教室に入ると、学が昨日と同じように駆け寄ってきた。


「羚弥、まだいるぜ、あの黒いやつ」


「ああ……」


学も俺と同じく、黒い男達の存在自体を嫌がっていた。


「確か昨日、山辺は人を捜しているらしいって言ってたよな」


「ああ。そして『怪しい人じゃないから安心しろ』とも言ってた」


「あんなの怪しむしかないだろう。あいつらのおかげで毎日怯えて登下校しなきゃいけないじゃんか」


「あ、怯えてんの? だっせー」


「ち、ちげーよ!」


「そうかー?」


「こっのやろう……」


キーン コーン カーン コーン


俺が学をからかい始めたその時、ベルが鳴った。


山辺が入室し、号令で一連の動作を始める。そして、それらが終わった時、山辺は連絡事項を話し始めた。


「昨日からいる黒いスーツの男達だが、今日校内を捜索するらしい。皆、くれぐれも邪魔にならないようにな」


そのことが嫌なのか、一人が文句を言った。


「何でそんなこと許可するんですか。部外者は立ち入り禁止でしょう」


山辺は冷静に対応した。


「彼らが捜している人はなあ、何があったか知らんが家出したらしいんだ。家出ってことは単なる行方不明と違って鬼ごっこしてるようなもんなんだよ。つまり逃げたり隠れたりするんだ。だからこういうところも捜さないといけないのさ。分かったか?」


山辺の分かりやすい説明に納得したのか、誰も口を開く者はいなかった。


「一時間目は古典か。じゃあ頑張れよ」


他に質問は出ないと判断した山辺は、適当にまとめ退室していった。


それからしばらく教室は騒々しくなっていた。


「あいつら入ってくんのかよ。不審者用の避難訓練の成果とか発揮すべきじゃないのか、これは」


「てか、学校の入口ずっと見張ってればいいじゃん。もしいるなら一週間くらいで出てくるんじゃないの? 出てこなかったら餓死するし」


「あの人達やだー」


「あの人数で犯罪とかやられたら対処できねえぞ」


口々に『嫌だ』という主張が出てくる中、俺は騒ぎに紛れて教室を出ていった。


『あいつらが本当に人を捜すという理由だけで来てるのか確かめないと』


何らかの危機があってからは遅い、と俺は玄関に向かって走り出した。


『あいつらの場合は自分で確かめないと信用できねえ』


そう思い、一時間目までという時間制限の中、全速力で駆け抜けた。