「アユ」


リビングから顔を出した母親に、呼び止められた。


「どっか行くの?」

「ちょっと………」


なんだか言いたくなくて、

あたしは言葉を濁した。


「あんまり遅くならないでね。
その前に、ケイタくんに夕食何がいいか聞いてきてくれる?」


何も知らない母親が、ケイタの名前を口にする。


あたしは耐えきれなくなって、涙が溢れそうになる。


「ケイタは………いないんだよ…」

「え?」