突然現れた王子



「アユ………」


ケイタが、泣くあたしを抱きしめようとした。


けれど、あたしに触れることなく、

すり抜けていった。


「っ……」


悲しそうな、ケイタの顔。

何もできない自分が、悔しくてたまらない。

そんな顔だった。


「アユ……」


あたしの名前を呟くケイタを、必死に見つめた。


ケイタは、今までにないくらい優しい笑顔で

あたしに微笑みかけていた。