雨と電車とチョコレート



「……それ、バレンタインの……?」



不意にそう尋ねられて、私はハッとした。


そうだった。


チョコレート!




「あの、これ」


「そうですよね。可愛いですもんね。そういう人、いますよね……」




私の言葉は耳に入っていないのか、彼はひとり肩を落とした。



何を呟いたのかはよく聞こえなかったけれど、いきなり落ち込んで、どうしたんだろう。



とにかく!


せっかく会えたんだ。


渡そう!



「あの、これ良かったら」



私は、持っていたチョコレートを両手で差し出した。



すると、彼はきょとんとした顔で差し出されたチョコレートを見て、次に私の顔を見た。