急いで来たのか、微かに息が上がっている。
いつも完璧にセットされているブラウンの髪が、乱れている。
……そんなに走ったの?
「あ、の……?」
私の手をつかんだまま何も言ってくれない彼に、私は漸く声を押し出すことが出来た。
私の声に、彼はハッとしたように手を離して、「すいません」とばつが悪そうに謝った。
「……もう、行っちゃったかと思って。そしたらいるから、驚いて、つい」
初めて聞く彼の声は、深くて、澄んでいた。
「あの、電車なら、行っちゃいましたけど……?」
彼の言葉の意味を量りかねてそう言うと、彼はカッと顔を赤くした。
白い頬が朱に染まる。
……私、何か照れさせちゃうようなこと言った?
いや、でもそれにしても。


