我を忘れている大寺の腕を羽交い絞めにして、なんとか耐えている小柴を見ながら、重信はノロノロと立ち上がった。
 脳震盪を起こしたのか、足元がふらついて真っ直ぐに立つことができない。
 今にも倒れそうな足どりで、重信はよろよろとその場を離れた。あれだけ殴られたのだ、もの凄く痛む筈の顔が、なぜか麻痺したように何も感じない。きっと、外気がひどく冷たいせいもあるだろう。
「今日はホテルも戻んなよ!!」
 後ろから小柴の声が響いた。
 確かに、ホテルにのこのこ戻れば、冗談抜きで大寺に殴り殺され兼ねない。
「っつてもこの寒さじゃ、その前に凍死だろ」
 掠れた声で重信は一人呟いた。
 行く充てなどない……。このまま公園で朝までやり過ごすか? など考えるが、この寒さではまず無理だろう。
(漫画喫茶でも探すか……)
 おぼつかない足取りで、重信は真夜中の大阪を彷徨った。

 結局、探し求めた漫画喫茶を見つけて辿り付いたのは深夜一時。すっかり氷のように冷たくなってしまった身体で、ヘトヘトになってそこで一夜を過ごした。カウンターの受付の人は、腫れ上がった重信の顔を見て、ひどく驚き、救急セットを貸そうとしてくれたが、そのときの重信はそんなことにも気を留める余裕はどこにもなかった。