重信は天井を向いたまま、未だ続く鈍い痛みに顔を歪ませた。
 昨日殴られた頬が痛む。そして、先程殴られた鳩尾も……。とにかく、どこもかしこも痛んだ。
「痛い? 君って結構強情なんだ」
 三人とも行ってしまったとばかり思っていたのに、気付けば小柴が重信を屈んで覗き込んでいた。
 ぎょっとして、咄嗟に重信は唇を腕で覆う。
「なになに~? もしかして、またチューされると思ったり?」
 ぷっと吹き出して、小柴は重信のすぐ脇にスマホをちょんと置いた。
「勝手に俺のと赤外線しといた。ほら、近くにアオイちんがいると呼び出しにくいじゃん? 次からはメールで連絡するし」
 抜かりない男だ。
 言うだけ言うと、小柴は意外にもすんなりと立ち上がる。
「じゃあね、萩本くん」
 今度こそ空き教室を後にした小柴の薄れゆく気配を感じ取りながら、
(もう逃げられないか……)
と、ふとそんなことを思って、重信は静かに天井を見つめるのだった。