いつの間にか重信の上着ポケットからくすねたのか、小柴の手には重信のスマホが握られている。

「萩本くん、ちょい借りるよ~」
 不似合な程軽い口調で、小柴が重信のスマホを勝手にいじり始めた。運の悪いことに、面倒臭いことの嫌いな重信は、画面にキー設定をしていなかった。
 生理的な涙が滲み、重信は霞む視界でその様子を見ていたが、反論する力は残っていなかった。
「流石に顔面は避けといてやるよ。アオイが目にしたら余計な心配するだろうしな」
 蹲る重信を見下ろし、大寺が言った。

「お、俺は……、アオイを…けほっ、裏切らない……!」
「言ってろ。萩本、お前がアオイの近くに居続ける限り、これからずっとこれが続くと思え」
 そう言って、今度は蹲ったままの重信の左胴を今度は脚で蹴り上げた。
「!!!」
 勢いよく後ろに転がった重信は、そのまま仰向けにどうっと倒れ込んだ。自転車で転倒したときよりも遥かに強い痛みだった。まさに、人為的に与えられた痛み……。
「まあ、今日一日もう一度よく考えろ。痛いの好きじゃねぇだろ? お前がマゾなら話は別だけど」
 仰向きに倒れている重信を覗き込みながら、島田が言った。
 その間にも、大手は踵を返していた。どうやら、今日のところはこの日の制裁を終えたらしい。そして、大寺は振り向きもせず、重信にこう言った。

「このこと、親や教師どもにチクんじゃねぇぞ。無論、アオイ本人にもな。分かってるとは思うが、このことを知って傷つくのは誰でもなくアオイなんだからな」
……と。