敵対する立場としての言葉を口にしておきながら、小柴はまた重信の混乱を引き起こすような、肯定的なことを口走る。
(な、何考えてんだ、この人?)

「君ってさ、ひょっとすると、ゲイなの?」
 重信は目を見張ったまま、
「は?」
と、小柴に聞き返していた。内心、なぜこんな奴にバレたかと、ドギマギだ。
「……なんて思ったりしたんだけど。だって、高二まで彼女つくんなかったり、特定の男子にベッタリだったりするもんだから」
 重信が誰からも隠してきた事実が、今この小柴という男に、いとも簡単に見破られようとしている。
「けど、やっぱ違ったのかな~とも思ったり。だって、アオイちん女の子だし」
 重信はまさに、いつ爆発するかも分からない、時限爆弾を目の前に突き付けられているような気分だった。
「とまあ、そんなことどうでもいいか。君とはしばらく楽しめそうだから」

 重信は頭が真っ白になった。
 今、どういう訳か、小柴の唇が自らの唇に触れていたからだ。
(なっ……!)
 ファーストキスだった。
 重信のファーストキスは、あっけなくこの訳の分からない男に奪われてしまったのだ。
「何すんですか!!」
 思い切り小柴をつき離し、重信は咄嗟に唇を服の袖でごしごしと拭う。
「ごめん。ひょっとして、萩本くん初めてだったり?」
 ケタケタと笑う小柴を、重信は信じられない思いで睨みつける。
「言ってなかったけど、俺、男でも女でもどっちでもいける筋の人間なんだよね~。云わば、両刀使いってやつ?」
 驚くべき小柴の暴露に、重信はひどく困惑した。
「じゃ、そろそろ俺は教室戻るよ。これ、ありがとね」
 まるで何事も無かったかのように、スタスタと小柴は保健室を出てゆく。
「あっ、言い忘れてたけど、昨日君のこと、何の秀でた特徴もない平凡そのものって言ったけど、あれ嘘だから。こうして見ると、実際なかなかのイケメンだと思うよ~」
 捨てゼリフというには、あまりに衝撃的な言葉。
 一人保健室に取り残された重信は、小さく握り締めた拳を震わせた。

「な~~~~~~~~~~~~~!?」