昨日、大寺たちに入れられた忠告を全く聞き入れなかった重信は、いつもようにアオイのすぐ脇に忠犬よろしくぴったりとくっついていた。
 当然、様子を見に来た大寺たちに見つかり、いきなり顔面に大寺のパンチを食らった次第だ。
 こうして氷で冷やしていると、いくらか小マシになったように思えたが、それでもじんじんと痛む頬に、重信は顔を顰めた。だが、歯が折れなかっただけでも運が良かったのかもしれない、と重信はそう思った。この若さで空きっ歯なんて、あまりにみっともなさすぎる。

「えっと、萩本くん、先生はトイレと手洗い場の衛星チェックの時間だから、しばらくベッドで休んでて頂戴ね」
 保健の百合子先生がカーテンごしに重信にそう話した。
「はい」
 真面目な一生徒である重信はそう答えた。
 が、この百合子先生には、この怪我がどうやってできたのかを正直に話してはいなかった。馬鹿正直に、三年の大寺に殴られたと話した暁には、きっと大騒ぎになるだろうと踏んでいたからだ。今のところ重信の怪我は、よそ見して歩いていたときに、石頭の生徒とぶつかったということになっている。しかも、相手が誰なのか覚えていない設定だ。
 笑える設定だが、重信はなかなかいい作り話だと思っていた。なかなか説得力のある筋書ではないだろうか?

 そんなことを考えていると、急に保健室の扉が開いた。
(誰か怪我でもしたのか?)
 頬に氷をあてがいながら、ぼんやり天井を見上げていると、シャッと勢いよくカーテンが開かれた。