「ハギ、大丈夫か……?」
 アオイが心配そうに見下ろしてくる。
「ああ」
 アオイを心配させないように、しっかりとした口調で重信はそう返事をしつつも、
(反則だろ、子犬め)
と、しゅんとしたアオイの様子がまるで耳を垂らした子犬さながらで、内心はドッキンドッキンしていた。

 今、重信とアオイは保健室にいる。
 ベッドに転がり、赤く腫れ上がった頬と切れた唇を氷で冷やしながら、重信は不謹慎にもこ
の状況を少しだけ喜んでいた。こうしてアオイに心配されるなら、頬の痛みも安いものだ、とまで思ってしまうのは重症だろうか?

「……にしても、大寺さん、どういうつもりだ? いきなりハギのことぶん殴ってよ」
 保健の先生が渡してくれたバンソーコーをはがし、アオイが血のついた唇の端っこにそれを貼り付ける。
(まあ、原因は分かってるけどな……)
 そんなことを考えながら、
「イテ」
と、重信は腫れた頬を緩く擦った。勿論、昨日あの空き教室に三人に呼び出されたことは、アオイには話してはいない。自分の兄が関わっていると知ったら、ひどく心配するだろうし、いらぬ不安を招くようなことはしたくなかったから、今のところ殴られた原因も話すつもりはなかった。「アオイ、教室戻れ。俺はもうちょっと休んでから戻る」
 何か言いたそうにしているアオイを、半ば無理矢理保健室から追い出し、重信はベッドでふうとやっと一息ついた。

(それにしても、なかなかすごいパンチだったな)
なんて、つい先程の出来事を呑気に思い出したりなんかしてみる。