「だからアオイは男なんかじゃないくて、れっきとした女なんだよ? 分かるか? ん?」
 そう言って、大寺はぐいと重信の胸倉を掴み上げる。それでも怯むことなく、重信はじっと大寺から目を逸らすことなく真剣な眼差しを向
 自分よりも背の高い重信を、大寺はじっと睨んだ。
「アオイはな、赤ん坊のときからずっと男世帯で育ったんだ。で、ああなっちまった。ーーーと、少なくとも圭司と俺はそう思ってる」
 彼の言っていることは嘘ではなかった。大寺が塚本家の苦労をたくさん見てきたことは確かだ。アオイのことをよく理解しているというのも、嘘ではないだろう。
「だからアオイは男なんかじゃないくて、れっきとした女なんだよ? 分かるか? ん?」
 そう言って、大寺はぐいと重信の胸倉を掴み上げる。それでも怯むことなく、重信はじっと大寺から目を逸らすことなく真剣な眼差しを向け続けた。
「いいか、萩本。最後にもう一度だけチャンスをやる。今後一切塚本 アオイに近付くな。次近付いたら、今度こそお前をぶん殴ってやる」
 アオイを守ること、それがまるで自分の使命だとでもいうように、大寺は掴んでいた重信の胸倉を強く引き寄せた。いつの間には、圭司とともに過ごす中で、圭司の思いが大寺の思いと重なるようになってしまったのだろうか。
「アオイは男です」
 それでも頑なに意見を曲げない重信に、大寺は眉根を寄せて、掴んでいた胸倉を乱暴に突き放した。
「誰もお前の意見なんか聞いてねぇよ」
 大寺の目配せで、隣に控えていた島田と小柴も机から立ち上がった。
「俺らの忠告分かったな?」

 去り際に、三人は再度重信に釘を刺した。