(これは、なんとなくまずいんじゃないか?)
と、重信は心の中で呟いた。

 今、重信のいる場所は、現在は使われていない空き教室だった。しかも、ここは北校舎の四階の一番隅に位置している。このすぐ隣の部屋は物置と化していて、ここには滅多に人は訪れない。
 即ち、手入れもほとんどされていない為、蛍光灯も切れていて薄暗いし、天井にはところどころ蜘蛛の巣まで張っている始末。

「お前のこと調べさせてもらったぞ」
 埃臭い空き教室の机に腰かけ、トレッドヘアが印象的な三年、大寺 連太(おおじ れんた)がそう重信に言った。
「調べた?」
 眉を顰め、重信は大寺を見つめる。
 大寺のすぐ隣には、金髪ピアスの島田 龍介(しまだ りゅうすけ)と、赤メッシュを入れた小柴 峻(こしば しゅん)が、クチャクチャとガムを噛みながら、重信を観察でもするかのように、じろじろと見ている。
「萩本 重信(はぎもと しげのぶ)。天照寺第三中学出身。学力体力ともに平均並み。特に秀でた特徴無し。クラブは中学時一年間だけバスケをしたが、すぐに辞めている。交友関係少なく、主に井本 恵太(いもと けいた)といつも一緒に行動している。恋愛には奥手と見え、彼女歴も無し」

 まるで、紙面でも読み上げているかのような、抑揚の無い無感情な大寺の声。これだけの個人情報をたった一日で調べ上げたことは、実に驚きだ。
 重信は、個人的ことを勝手に調べ、曝されたことへの腹立ちを感じずにはいられなかった。
「おお、こわ」
 じっと目を細め三人を睨む重信を見て、ケラケラと島田が笑い声をあげ始めた。