(確かに、俺は、アオイの何を知ってる……?)
 重信が茫然として、ぼんやりと壁のポスターを見つめる。
(……何も知らないくせに、何がダチだ)
 アオイに信頼され、友人の地位を勝ち得たと思い込んでいた重信だったが、永遠子の言葉によって、それが単なる過大評価しすぎた思い込みだったように思えた。

「ココア持ってきたぞ」
 アオイがトレーの上にカップを三つ載せて部屋に戻ってきた。
 その瞬間的に、重信と永遠子があからさまに互いの目を音がしそうな程勢いよく逸らした。

「ん? お前らなんかあった……?」
 なんとなく淀んだ空気が流れていることに気付いたのか、アオイが顔を顰めた。
「別にー? それよりさ、早くココア飲も」
 コロリと態度を変え、永遠子がにっこりと笑顔を浮かべた。まさに恐るべし。
 重信も、気に食わないのは承知の上、取り敢えずは彼女に合わせて平然を装うことに決めた。が、正直なところ、その後の重信の記憶はひどく曖昧だ。もう、アオイ宅へ来たドキドキ感も嬉しさも、すっかり失われてしまっていた。この時は、不安と落胆の感情が、重信をすっかり包み込んでしまっていたからだ。
 永遠子は好きになれない。そんな彼女ではあるが、今は確実に重信よりもアオイのことをよく理解していることは確かだ。敗北感と、どうにもできない苛立ちが、重信の中で燻っている。
 甘く暖かいココアの筈が、重信はどういう訳か全く甘味を感じることができなかった。